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狐狸庵先生こと遠藤周作さんは、中学生から高校生にかけて、時に愉快であり、時に厳かな文章を与えてくれた。
中学生3年生の時に、こんなことがありました。夏休みの宿題に読書感想文の提出があったのですが、なんの打ち合わせもしていなかったのですが、友人と私が遠藤周作さんの『黒ん坊』の読書感想を提出したのです。それを知った時に、思わずニンマリとしてしまいました。
中高学生の頃は、どうしてもユーモアたっぷりの『ぐうたら』を冠する作品を好んで読んでしまったが、奥の深いテーマを持つ『海と毒薬』や『沈黙』は、読書の楽しさを教えてくれる。
さすが「違いがわかる男」。
<遠藤周作さんの紹介>
1923年3月27日東京生。慶応大学仏文科卒。学生時代から『三田文学』にエッセイや評論を発表。55年「白い人」で芥川賞獲得。66年「沈黙」により谷崎賞受賞。代表作「海と毒薬」「死海のほとり」他。
黒ん坊
カバー装画 和田 誠
天正八年の春うららかな安土城下に、南蛮宣教師に連れられてヒョッコリ姿を現した、アフリカ生まれの黒ん坊ツンバ。天下制覇を目前にする織田信長の御前に召されて不興を買い、高らかなオナラを残して逃げ出すが、世の中は、やがて、本能寺の変で大さわぎ・・・・。(角川文庫 見開きから抜粋)(宝島文庫 裏表紙から)
ただいま浪人
カバー装画 秋野卓美
東大受験失敗した浪人の信也は、無気力で空虚な日常から脱出しようと、家出をしてスナックに勤める。一方、姉の真里子は、中年の男優との恋に悩みつつも、平凡な結婚に踏み切る。人生という学校に合格していない浪人たちが、生きることと生活することとの違いを自覚していく過程を描いた感動的長編。(講談社文庫 裏表紙から)(宝島文庫 裏表紙から)
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ぐうたら人間学
カバー装画 秋野卓美
ぐうたら人生の味を開陳する狐狸庵山人の珍妙な人間学。秀吉の夫婦喧嘩を仲裁する信長に英雄偉人の尻尾を覗き、酒癖のあれこれに人情風俗の妙を知る。権威や独善には背を向け、劣等生的人間には豊かさを見、親愛感を覚える。愛すべきはマヌケ人間、語るべきは気弱人間。回想、身辺雑記をまじえ、軽妙な人生の味をいかんなく示す風刺の筆。(講談社文庫 裏表紙から)
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狐型狸型
カバー装画 和田 誠
細面の妻にこりた彼は、妻の病死後、今度は、丸顔で愛嬌のある、狸型の顔の女と再婚したが。・・・・表題作ほか10篇を収録。哀しく、滑稽な人間存在への共感をこめた、ユーモア傑作集。(角川文庫 見開きから抜粋)
ボクは好奇心のかたまり
カバー装画 ヒサクニヒコ
いかにもの好きといわれようと、いかに冷や水とけなされようと、生れつきの好奇心のムシはおさまらない ― 美人女優に面談を強要する、幽霊屋敷を探検に行く、上野の乞食氏と対談する、催眠術の道場を見物に行く、舞台熱が昂じて素人劇団を結成する、無謀にも運転免許に挑戦する etc、etc.。呆れるばかりのもの好き精神を発揮して狐狸庵先生東奔西走。珍妙無類のエッセー集。(新潮文庫 裏表紙から)
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海と毒薬
カバー装画 熊谷博人
日本人は、今次対戦末九州大学で外人捕虜を生体解剖に処すという戦慄的な非人道行為を犯した。「海と毒薬」はこの事件を作品成立のモチーフとするが、作者はこの異常な事件を内面化し、事実とまるで異なった次元のもとに描き出し、単なる恥の意識ではなく、日本人の罪責意識を根源的に問おうとした。(角川文庫 カバーそでから)
ネタバレなしの読後感想
昭和49年8月発行の第12版を読み返してみました。購入時は中学2年生か3年生だったと思われるので、当時の私にどの程度理解ができたのかと思うほどに、深く重たいテーマが描かれています。
第二次世界大戦末期に日本に対して無差別爆撃をして捕虜となった兵士に、医学の発展のために生体解剖実験をした医師・研究生・看護婦とそれに立ち会った軍人を通して、罪の意識のありようが書かれていますが、全体に自分の意志を捨てて流されていく様子が気になりました。戦時下で多くの人たちが命を落とし、十分ではない医療の中で患者も死んでいく。人の命が軽んじられ易い状況であるものの、生体解剖実験が殺人であることを十分に意識していながらも抗うことなく手を下すことは狂気の世界であるが、罪の意識が全く無かったわけではなく、それぞれがそれぞれの理由をつけて自分自身を納得させて、罪意識と嫌悪感を抑え込んでいるようだ。
信仰を裏付けとしていない多くの日本人の罪への意識の希薄さを多くの人が口にしているが、道徳や倫理観がそれを補っているのかもしれない。だとしたら、日本人の罪と罰の意識は欧米に比べると異色のものだろう。「そんなことをしたらバチがあたるよ。地獄に行くよ。」と言われて、ひるむ日本人がどれだけいるだろうか。薄笑いを浮かべて、やり過ごすのが関の山ではないだろうか。
キリスト教では実際に罪を犯さなくても、「殺したい」とか「妬ましい」と “悪い思い” を思い描いても罪になるとしている。“悪い思い“ は次から次へと訪れるから厄介だ。例えば駅の構内で人とぶつかり荷物をバラまいてしまった時に、「ぶつかったくせにそのまま行くのかよ」「おいだれも拾ってくれないのかよ」「あいつ踏んでいったな」と“悪い思い” のオンパレードになる。そこで贖罪(キリストが十字架での死によって、人類を罪の許しの代償となったこと)があり、告悔や祈りによって罪が許されるとしている。法的な罪は許されないにしても、罪をとその責任を意識するには十分かもしれない。
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父親(上)
カバー装画 下高原千歳
石井菊次は56歳。化粧品会社の宣伝と商品開発の担当部長。妻お純子、公一の二人の子供がいる。だが、平穏無事な生活とはこんなに脆いものなのか。スタイリストの仕事に生きがいを持つ純子が、妻子と別居中の青年実業家・宗と道ならぬ恋に落ちた −。娘の平凡な結婚を願う菊次は、宗の妻が初恋の人の娘であることを知り、複雑な思いに悩む。(集英社文庫 裏表紙から抜粋)
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深い河
カバー装画 小山 進
愛を求めて、人生の意味を求めてインドへと向かう人々。自らの生きてきた時間をふり仰ぎ、母なる河ガンジスのほとりにたたずむとき、大いなる水の流れは人間たちを次の世に運ぶように包みこむ。人と人のふれ合いの声を力強い沈黙で受けとめ河は流れる。純文学書下ろし長篇待望の文庫化、毎日芸術賞受賞作。(講談社文庫 カバー裏表紙から)
<目次>
一章 磯辺の場合
二章 説明会
三章 美津子の場合
四章 沼田の場合
五章 木口の場合
六章 河のほとりの町
七章 女神
八章 失いしものを求めて
九章 河
十章 大津の場合
十一章 まことに彼は我々の病を負い
十二章 転生
十三章 彼は醜く威厳もなく
ネタバレなしの読後感想
日本人の持つ宗教観を、ガンジス川を訪れた観光客一人ひとりに焦点を当てて描いた作品です。
けっこう厚い本なので読むのに骨が折れるかなと思いましたが、どんどんと興味を惹かれ一気に読んでしまいました。
八百万の神が生活に根付いている日本人のキリスト教に対する宗教観は、欧米のクリスチャンには理解しがたく受け入れられないものなのかもしれない。大多数の日本人は、日本武尊が神として自分自身に禍福をもたらすとは信じていない。ましてや明治天皇が神であると信じて明治神宮へ初詣に行っているわけでもないが、心の拠り所として “か細く” 息づいている。比べて、この本に書かれているヒンズー教徒の猛々しさはなんだろう。決して非科学的だとか未開の人のすることだとか笑うことができない力をガンジスの流れとともに感じられる。
作者は問う。神は無信心なあなたの内におり、ヒンズー教徒の内におり、クリスチャンの私の内におると。なのになぜ争うのかと。
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