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カバー装画 坂田政則
女武芸者の佐々木留伊が、夜の街に出没して〔辻投げ〕を行うのもつまるところは、男を漁り男を得、子を産み妻となり母となりたいがためのことなのである ― という書き出しで始まる「妙音記」は、美しく強い女の人生の転機をユーモラスに描いている。他に、さまざまな剣客の姿を機智をもってとらえた7篇を収める。(文春文庫 裏表紙から)
<収録>
秘伝
妙音記
かわうそ平内
柔術師弟記
弓の源八
寛政女武道
ごろんぼ佐之助
ごめんよ
ネタバレなしの読後感想
8つの短編から構成されるこの『剣客群像』は、様々な剣客のタイプを描いている。いずれも江戸時代を背景としており、おおかたの武士は戦闘のための武士としての役割はなく、あっても警護・警備でありお座なりの技量で済んでいたのかもしれない。
そんな中にあっても剣術の道場がほうぼうにあり、稽古事としての武術は忘れられることなく引き継がれ、中には技を極めた者もいたのであろう。この小説では、太平の世で技を極めた者を描いています。
『秘伝』は、師が遺した秘伝書に対して三人の弟子の解釈の仕方を描いている。三人三様の解釈があり、武道が技のみが大切ではないことを記している。『妙音記』は、『剣客商売』の佐々木美冬や『まんぞく まんぞく』の堀真琴を彷彿とさせる女剣士を描いている。池波正太郎さんの好きな題材のようです。『かわうそ平内』は、容貌が冴えないため軽んじられた男が、弟子が志す仇討ちのために本領を発揮するという痛快なストーリーです。
他の5編も自分の技量を試すために諸国を行脚したり勝負を繰り返すという、いわゆる剣客・剣豪のイメージではなく、人に技を披露することすら避けようとする究道者が多いため、読後に温かみを覚えます。
『ごろんぼ佐之介』は、角川文庫の『炎の武士』にも収録されています。
多くの時代劇の原作者となった、稀代の時代小説家です。
「必殺仕事人」、「鬼平犯科帳」、「剣客商売」がおなじみですが、主人公や登場人物に愛着がわくような人物設定が見事です。ですから、ともすればワンパターンになりかねない殺し、捕り物、剣劇のテレビドラマになっても、飽きがこないのではないかと思います。
歴史小説家としては、真田家を様々な角度から描いています。作者が、真田家について深く研究をした結果であることは、容易に想像がつきます。
<池波正太郎さんの紹介>
1923(大正12)年、東京に生まれる。1955年東京都職員を退職し、作家生活に入る。新国劇の舞台で多くの戯曲を発表し、60年第43回直木賞を「錯乱」によって受賞。77年第11回吉川英治文学賞を「鬼平犯科帳」その他により受賞する。作品に「剣客商売」「その男」「真田太平記」“必殺仕掛人”シリーズ等多数。
池波正太郎さん その他の文庫本
戦国幻想曲
英雄にっぽん
編笠十兵衛
まぼろしの城
あほうがらす
あばれ狼
剣客商売
侠客
おれの足音 上・下
闇の狩人 上・下
上意討ち
男振
闇は知っている
さむらい劇場
蝶の戦記 上・下
鬼平犯科帳 1
真田騒動 恩田木工
堀部安兵衛 上・下
忍びの女 上・下
炎の武士
梅安最合傘 仕掛人・藤枝梅安
殺しの掟
梅安乱れ雲 仕掛人・藤枝梅安
まんぞくまんぞく
むかしの味
剣客商売 陽炎の男
旅路 上・下
雲霧仁左衛門 前・後
江戸の暗黒街
忍者丹波大介
夜の戦士 上・下
忍びの風 一・二・三
忍者群像
火の国の城 上・下
剣の天地
食卓のつぶやき
仇討ち
剣客商売 新妻
池波正太郎記念文庫
JR鶯谷駅からゆっくり歩いて20分ほどの所にある「池波正太郎記念文庫」。ガラス張りの台東区立中央図書館の1階の一隅にある。今年(2022年)が池波正太郎さんの生誕百年とあってか、公営の施設にも関わらず少し力が入っているように感じる。
入場は無料。撮影は禁止。著書、直筆の原稿などが場所柄か少し窮屈そうに展示されている。
池波正太郎さんが描いた絵もある。きっと短時間にササッと書かれたのであろうが味がある。
池波マニアは行くべきです。