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カバー装画 田村義也
“蘇聯の衛星船ボストーク三号と四号が地球の外に飛び出して，まはりをぐるぐる廻つてゐるさうだが，そんな事はどうだつて構はない。うちの猫クルツがこなひだ内から病ひ篤く，家の者三人，私と家内と女中と，総掛りで夜の目も寝ずに介抱している。”（本文より）（旺文社文庫 カバーそでから）
＜収録＞
クルやお前か
カーテル・クルツ補遺
ネコロマンチシズム
肩ぐるま
坐り込む
暹羅の闘魚
虎を描いて
狗に類する
しつぽり濡るる
皮膚虎列刺
魔阿陀十三年
ひよどり會
八十八夜は曇り
年の始めの
ヤマハ
キンダイチ
片山敏彦君
ネタバレなしの読後感想
第二次世界大戦前におきた随筆ブームの立役者である作者が戦後に書いた、愛猫のクルツが病気で死んでしまった前後と思い出を綴った表題作などを収めた随筆集です。
ネコを飼ったことのない私には信じられないほどに、クルツやその前に飼ったネコ「ノラ」を可愛いく、悼み、懐かしむ思いを、これでもかと言わんばかりに綴った文章力には感嘆させられる。恐らく世の愛猫家や他のペットを飼ったことのある人に、強い共感を覚えさせたのではないかと思う。
他の作品の多くは、ざっくばらんに書かれたものが多く、日本郵船勤務時のことや広い交流のことが面白く読むことができる。
文章は旧漢字や旧仮名遣いで書かれているため多少読みにくさはあるが、当時の仮名遣いや言葉遣いを知る良い経験もできるのではないかと思います。
＜内田百閒さんの紹介＞
小説家、随筆家。明治22年、岡山市古京町の古い酒造家の一人息子として生まれる。本名、内田栄造、百鬼園とも号す。六高、東大独文科卒。青年期より、俳諧に親しみ、また、夏目漱石に傾倒。のち、漱石門下の一人となる。初期小説には夢幻的な心象風景を描いた『冥途』『旅順入場式』などの秀作群があり、やがて、『百鬼園随筆』によって独得の文学世界を確立した。
詩琴酒、汽車、猫など多彩な好尚のおもむくままに綴った名文章は、おかしみの中に人生の深淵をのぞかせる。昭和46年、死去。（旺文社文庫から）
