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<子母澤 寛さんの紹介>
明治二十五年(1892)、北海道に生まれる。本名、梅谷松太郎。明治大学法学部卒業。読売新聞・毎日新聞の記者をつとめた。昭和三年『新選組始末記』を出版。のち股旅小説を多数発表、『弥太郎笠』『菊五郎格子』『国定忠治』『すっ飛び駕』『駿河遊侠伝』などがその代表作。戦後は幕末遺臣と江戸への挽歌ともいうべき作品『勝海舟』『父子鷹』『おとこ鷹』『逃げ水』などを発表、昭和三十七年に菊池寛賞受賞。随筆の名手として知られ、『ふところ手帖』(正統)のほか『愛猿記』『よろず覚え帖』などがある。昭和四十三年(1968)没。(中公文庫から)

 


 

勝海舟(一)黒船渡来

勝海舟(一) 子母澤寛 新潮文庫 

 

ネタバレ無しの読後感想

 

戊辰戦争のときに、江戸城を開城する談判を西郷隆盛とした徳川家の重臣として知られている人です。この第一巻の前半は海舟の父小吉が主人公です。勝家に養子として入った小吉は、徳川家の家人としてわずかに四十俵の俸禄しかなく、役がないために手当もない極貧生活だが、土地の人たちに慕われる無骨でも頼りにされた人でした。困った人への手助けは単なる援助ではなく、極貧の中にあってさえ無私どころか滅私の気持ちで奔り、家族もそれを信頼するという環境で海舟(勝麟太郎)が育ったことを綴っています。この様子を子母澤寛さんは『父子鷹』でも書いていますが、小吉の自伝として講談社学術文庫『夢酔独言』がネタ本なので、こちらも読むといいかもしれません。
「鳶が鷹を産んだ」というよりも「この親にしてこの子あり」と思わせる生き方にジンとくるものを感じます。
後半は、麟太郎が貧しい中で剣術の稽古から蘭学を志して行く様子が描かれています。旧弊によって進路を塞がれても、師や支援者の助けを得て寸暇を惜しんで学ぶ姿勢に、「なんのために学ぶのか」という事を考えざるを得ない。後に何回も「赤誠」という言葉が出てくるが、立身や出世のためではないことは後の行動からも伺い知れる。「一途」であることの力を感じる。

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勝海舟(二)咸臨丸渡米

勝海舟(二) 子母澤寛 新潮文庫 

 

ネタバレ無しの読後感想

 

一巻に続き長崎の海軍伝習所でオランダの海軍士官などから勝麟太郎たちが学んでいくが、言葉の壁や今の時代でもあるような双方の他国人への蔑視からコミュニケーションが上手く取れなかったことがわかる。勝らは自分たちが命がけで学んでいることを態度で示してこの難関を突破する。
この巻を通しても多くの人たちが病に倒れ早世していったことが随所に書かれている。常に死が隣にいることが、この時代に生きた人たちの人生を濃くしていたのだろうと想像させられる。
この巻の主たるものは咸臨丸を日本人だけの操船でアメリカに行ったことです。航海中の困難さやアメリカ西海岸での滞在については勿論ですが、費用の捻出についても書かれています。今の時代にこんな事ができる人がいるだろうか、と思うほどの行動に感服します。後にアメリカに征服されるハワイのことにも触れています。
巻の末の方は将軍家持への拝謁と坂本龍馬、岡田以蔵らとの出会いが書かれている。勝が幕臣であるから当然なのかもしれないが、家持への思いは非情に強いものとして書かれているように感じる。幕府という組織への大きなこだわりはないが、徳川家に対する思いは特別なものだったのだろう。

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勝海舟(三)長州征伐

勝海舟(三) 子母澤寛 新潮文庫 

 

ネタバレ無しの読後感想

勝海舟が不惑(42歳)を迎えた頃の物語です。攘夷の思想に固執する朝廷から外国船打ち払いの勅旨が出ている一方で、幕府は諸外国に開港する箇所を増やすことを約束するという状況の中で、長州と薩摩は外国船に砲撃をして朝廷の命に従い、その賠償金を幕府が諸外国へ支払うというチグハグな状態によって威信と財政の力を失っていき、幕府は屋台骨がぐらついていく。
将軍家茂の死によって最大の理解者を失った海舟は、朝令暮改を繰り返す幕閣によって敬遠されながらも、大事な場面では重用されるということを繰り返す中で悶々とした日々を送る。ときに弱音を吐くが、良き理解者から「赤誠」の思いを通すことを諭される場面も多い。
家持亡き後は徳川家臣としての立ち位置が薄れ、日本のためという思いが大方を占めるようになっていくことが読み取れる。憂慮、諦め、希望がない混ぜになって海舟の心を苦しめるが、第二次長州征伐のゴタゴタと家持の死によって更に重くなっていく様子に、読んでいても鬱々としたものを感じる。
時の流れは幕府に厳しく、それに抗することは的外れであり、因循姑息な態度に終止した幕府の政治を見ると、長期政権が持つ変化への対応の弱さを感じる。突破口を開くための行動が、かえって自分を苦しめる様子は現在の露プーチン政権にも見られるし、中国習政権もどうなるかと思わずにいられない。日本も同様で、世界経済が順調な中で日本は停滞し埋没を続けている。給付金では経済が良くならないことを知っていながら、経済対策を取ることなく給付を続ける政府に因循姑息の言葉を贈りたい。

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勝海舟(四)大政奉還

子母澤寛 勝海舟(四) 新潮文庫

 

ネタバレ無しの読後感想

勝海舟が45歳の頃です。いよいよ幕府の力が衰えしまい、諸外国との交渉も国内の治安もままならず、気力も資金も失い無為な時間を過ごす幕府を尻目に気力と力を取り戻す長州と、長州と手を組んだ薩摩。将軍慶喜は大政奉還によって幕府を追い詰める動きをかわすが、これは旧幕臣の不平分子の行動の呼び水となってしまい、慶喜の思いとは違った結果となり鳥羽伏見の変へと至ってしまう。
このような中で、海舟は薩摩長州と通じている者として幕臣から白い目で見られてしまう。
海舟がやりたかった海軍の成長と充実が朝令暮改により、進められたり停滞したりを繰り返すことは海舟にとってどれだけ残念なことであっただろうか。
次男を亡くし、長男を留学に出した海舟の父親としての寂しさを共感するとともに、良き友良き師弟関係を持ったことによって、支えられ、諭されていく父親譲りの人間臭さに共感を覚え羨ましささえ感じる。下層の出であっても歴史に名を残した人物の努力・それによる人との出会い・人間としての魅力のようなものをこの小説から感じる。そして、自分の知恵に頼るのではなく、信じたことにトコトンこだわる生き方によって骨太な人生が与えられるのだということを学ばさられる。

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勝海舟(五)大政奉還

勝海舟(五) 子母澤寛 新潮文庫

 

ネタバレ無しの読後感想

海舟は46歳となり、陸軍総裁を命ぜられ官軍に対しての全権を任せられるが、徳川慶喜が上野寛永寺で謹慎中であっても、官軍に抗戦を望む意見が大半を占める徳川家臣を説得することもなく、慶喜の思いを果たしていく。
慶喜の謹慎を無駄にしないように心を割きながらも、朝廷が慶喜の身を傷つけようとするならば交戦を辞さないという考えすら徳川家臣たちに語ることもなく、大業を成し遂げた海舟の深い考えと肝の太さに感嘆を覚える。
鳥羽伏見の戦い後すぐに大坂城を捨て、家臣たちを置き去りにして江戸に帰り謹慎の選択をした徳川慶喜という人物に興味を覚える。
なぜ見苦しいまでに江戸へ逃げ帰ったのかは、実父徳川斉昭の存在が大きかったのではないかと思う。天皇を中心とする国のあり方を思う「尊王思想」の母体ともいえる水戸徳川家で育った慶喜にとって、天皇の勅命を受けた征討軍と戦うことは、あってはならないことだったのかもしれない。
しかし、家臣たちを置き去りにして、船で逃げ帰っていくというのは余りにも情けなく、将としての器を感じることが出来ない。知恵があっても尊王思想に縛られて、身動きが取れなくなってしまったということなのだろうか。

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勝海舟(六)明治新政

勝海舟(六) 子母澤寛 新潮文庫

 

ネタバレ無しの読後感想

江戸開城の後、新政府に不満を持つ彰義隊や榎本武揚が指揮する徳川の艦隊の対処に新政府と徳川家から期待されかつ疑いの目で見られる海舟を中心に、維新によって生活がおおきく変わった旧幕臣たちの苦悩、苦労と転身を描いています。
「もしも海舟がいなかったら」と考えてみると恐らくですが、260年余りに及ぶ因循姑息で官僚的な幕府のありかたかすると、江戸開城を検討する協議を長々と続けているうちに抗戦の声に引っ張られてしまい、江戸城は焼け落ち江戸の街も焦土になってしまったのではないだろうか。当然、東京遷都はなく、京都が維新後の日本の首都になったということも考えられます。
この長編小説に一貫して流れているのは「赤誠」です。耳慣れない言葉ですが、“飾りのないむき出しの誠実” ということだと思います。知恵がなければ何事もうまくいかないでしょうが、究極の大変時には「赤誠」がなければ難局を乗り越えることができないと作者が語っているように思えます。小知恵をいくら働かせても対処療法が関の山であり、ましてや少しでも利を求めると大局的にうまくいかないと。
この小説にしばしば出てくる言葉に「野郎の本箱」というのがあります。海舟の父小吉が口にしていた言葉だとしていますが、書籍の山のように知恵を持っていても、誠実さと行動力のない人は役に立たないという意味です。知識を得て、知恵に溺れることなく生きていくことができればと思います。

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国定忠治

国定忠治 子母澤寛 新潮文庫 
カバー装画 杉本健吉

 

ネタバレ無しの読後感想

 

痛快なストーリーです。
国定忠治は、天保の飢饉で知られた江戸時代後期の天保の頃に、今の群馬県で多くの困窮していた人達を助けた実在した人物です。侠客(きょうかく)と呼ばれる男気のある人で、昭和の中頃までは誰でも知っているくらいに有名な人物です。
私が10歳くらいの頃だと思うのですが、テレビで見たてんぷくトリオが国定忠治をコントで演じていたことを思い出します。忠治を演じるリーダーの三波伸介さんが、刀を片手でかざして「赤城の山も今宵を限り・・・」という名台詞に対して、子分役の伊東四朗さんがトンチンカンな応えを繰り返すのを戸塚睦夫さんがオロオロと見守るというというコントだったと思う。コントからはヒーローを感じることはなかったが、・・・
この小説では、世話になった人が裏切られ死に追いやられ、その娘が売られてしまったものを探し救うという流れですが、男気の良さから敵(かたき)からも惚れられてしまうという男ぶりが描かれています。
とにかく文章のスピード感が心地いいです。忠治や子分たちの若さと心粋(こころいき)が漲っています。
こんな台詞があります「よしッ。みんな出てやれ、どうせ遠くァ行くめえ」。片仮名台詞に用いることを子母澤寛さんはよくされていますが、言葉が生き生きとしているように感じます。
エンディングは青春もののような爽やかさです。

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遺臣伝

遺臣伝 子母澤寛 熊谷博人 新潮文庫 
カバー装画 熊谷博人

 

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幕末の剣豪男谷精一郎の師弟たちが、時代の流れに翻弄されながらも自分の生き方を見つけていく物語です。貧しい御家人や武家の次男三男が生きていくために剣で身を立てることが必要であり、良い師につき稽古に励むことによって念願が叶うと信じてきたことの困難さと、やっと手に入れたものが体制の変化によって奪われても、自らの信念に基づいて生きていく姿に清々しさを感じます。
時代の変化が怒涛のように押し寄せてくるが、それが一体何なのかを知るすべもなく生きていくのは今の時代も同じなのかもしれない。外国からの威圧によって開国をし、それに伴って尊王思想が強くなっていく中で幕藩体制が瓦解していったが、今の時代を揺り動かしているのは何なのだろう。インターネットテクノロジーの進歩だろうか。それとも自分ファーストの考え方だろうか。
時代は常に変化をしていて、過去の成功体験が役に立たなくなるスピードも増しているようだ。良い学校に入り良い会社へ就職すれば人生は安泰という図式も色あせている。
この小説の主人公は、悔いの残らない人生の歩み方を示しているように感じる。
『遺臣伝』と同じように幕末から維新へ生きていく武士を描いた小説が浅田次郎さんの『お腹召しませ』に収録されている。一緒に読んでみるのも面白いかもしれません。

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新選組物語

子母澤寛 新選組物語_2382

 

ネタバレ無しの読後感想

現代社会からは想像もつかない、血なまぐさい話で埋め尽くされている。
“幕末に咲いた徒花” というイメージよりも、立身出世の夢に集い、おごり、猜疑心と裏切りの中、厳しい隊規で縛り縛られた集団が、新選組であることが見えてくる。
結成からわずか6年ほどで新選組としての活動は終わったが、動乱の時期ならではの濃さをあとに残している。
元隊士や関係者が回想する言葉をまとめた、事実の断片ともいえる書です。
収録されている『新選組』と『流山の朝』は、著者が調べたことを素に、新選組への著者からの憐みとやさしさのある目線で描かれた、想像の物語です。
敗れ続けていく中、自嘲とともに過ぎ去った日々を振り返る。やり尽くしたという思いと
成し遂げられなかったという思いが、それぞれの隊士の心に交錯する。
新選組の真実を知りたい人にとって、必読の一冊です。

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逃げ水

子母澤寛 逃げ水_2383
カバー装画 熊谷博人

 

天保6年2月17日、江戸小石川鷹匠町山岡市郎右衛門の屋敷に肩幅広い、一男子が出生した。幼名謙三郎、後の高橋伊勢守政晃である。幕末史伝物に独自の境地を開いた著者が、その高潔な人格に深い共感を寄せつつ、幕末三舟の一人槍の泥舟の、時流に阿ねず、徳川家への忠誠に徹した生涯を克明に浮彫りにした名作。(角川文庫 カバーそでから)

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