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<阿川弘之さんの紹介>
大正9(1920)年、広島生まれ。東京帝国大学文学部卒業。
「春の城」など太平洋戦争をテーマとした作品が多い。
昭和28(1953)年、「春の城」で第4回読売文学賞受賞。
平成14(2002)年、「食味風々録」で第53回読売文学賞受賞。
平成19(2007)年、第55回菊池寛賞受賞。
平成27(2015)年没

 


 

春の城

阿川弘之 岸 健喜 春の城 新潮文庫
カバー装画 岸 健喜

 

第二次大戦に遭遇した一人の青年の友情、恋愛、師弟愛、肉親愛などを学徒出陣、基地の激務や空襲、マリアナ沖の大海戦、父や恩師、恋人を失った広島の原爆の惨状などを背景に描く著者の処女長編。大地と息吹を一つにしている若い生命の生活力や溌剌たる感受性、健康な生活感情や郷土愛などによって、激動の時代を生きた青春の群像をも鮮明に浮き彫りにしたすぐれた戦争文学。(新潮文庫 裏表紙から)

 


 

ネタバレなしの読後感想

長い日中戦争のために卒業を切り上げられてしまった学生が、終戦直後までに過ごした日々を父母、友人、恩師らの挿話を含めて綴られた小説です。戦記物ではなく反戦の考えに立ったものでもなく、流されていく感情、曖昧な思いなどのままに嫌も応もなく戦時下という日常に押し流されていく様が描かれていることが好ましい。
学業、仕事、家族、女性への思いなど青春期にあって考え行動することは過酷な戦時下であってもあり、一部の人は国のため天皇陛下のために潔く戦い死んでいくという考えを持っていたかもしれないが、国家思想に洗脳されてロボットのように戦い、命を落としていった人ばかりではないことを伝えてくれている。可哀そうだなと思うと同時に安心もする。
第二次大戦後も途絶えることなくどこかで戦争が続けられている。現在(2022年6月)ロシアのウクライナへの進行が始まって3ヶ月半が過ぎている。攻め入ったロシアの兵士は何を考えているのだろうか。攻め込まれたウクライナの兵士は何を考えているのだろうか。ロシアの市民は何を思っているのだろうか。ウクライナの市民は何を思っているのだろうか。
人の営みは、たやすくねじ曲げられてしまうが、たくましさも併せ持っている。大風に遭ったススキのように、なびいて穂を吹き飛ばされても根こそぎにはされない。

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感想(1件)



 

雲の墓標

阿川弘之 岸 健喜 雲の墓標 新潮文庫
カバー装画 岸 健喜

 


 

ネタバレなしの読後感想

京都大学で万葉集の研究をしていた大学生・吉野の日記と同期生の手記や恩師の手紙の形式を取り、学徒出陣で学業を切り上げて戦争へとむかわざるを得なかった若者たちの無念、焦りと心の揺らぎを綴った作品です。
1942年6月のミッドウェイ海戦での大敗を境に劣勢となった日本軍は、兵士の不足を補うために卒業を前倒しにして学生を徴兵することを常態としてしまうが、学業への未練や死ぬことを前提とした軍の教えに戸惑い、更に教官や志願者である兵学校生による制裁に苦しめられる。なおかつ、戦局の悪化とともに燃料や航空機の不足から満足な訓練を受けることもできない日々に、諦めをも覚えてしまう。
日記という形式が、滅びへの、死への道を刻んでいくようで憂鬱さを助長する働きをしているような感じがする。予備学生としての訓練を終え、海軍少尉となると今までになかった飛行機が艦船に体当たりをすることが当たり前のこととなり、死が不可避のこととして襲いかかってくる。友人や同期の死、南方の島々の陥落、海軍艦艇の損失、本土への空襲。「神経衰弱になったのではないか・・・」と思うほどに思考が停止してしまう。恐らく当時の多くの国民が同じ状態ではなかったのではないだろうか。
狂った時代に生きた学生たちが悲しい。

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感想(1件)



 

あくび指南書

阿川弘之 日暮修一 あくび指南書 講談社文庫
カバー装画 日暮修一

 

世の中しっかり見据えてみれば、身のまわりにも世間にも、こんなに言いたいことだらけ。粗忽の使者、転失気、あくび指南・・・・。ご存じ落語に材を借り、旧友悪友知己家族、知るも知らぬもマナイタにのせ、あたるをさいわい斬りまくる。面白おかしく語りながら、諷刺の味も小気味よく利いた痛快辛口エッセイ。(講談社文庫 裏表紙から)

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感想(0件)



 

 


 


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