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五味川純平 安彦勝博 ノモンハン(上) 文春文庫
カバー装画 安彦勝博

 

「戦争の勃発そのものが信じられぬほどに軽率であり、戦闘継続の経過に周密な思慮の働いた形跡が見られない・・・・」(あとがきより)
ノモンハン事件は、日本軍が経験した最初の本格的な近代戦であったが、その結果は帝国陸軍史上最大の無惨な完敗であった。膨大な資料と新しい証言を駆使して、その実態に肉薄する注目の戦記。(文春文庫 裏表紙から)

 

五味川純平 安彦勝博 ノモンハン(下) 文春文庫
カバー装画 安彦勝博

 

ノモンハン事件は小型「太平洋戦争」であった。それは太平洋戦争の末路をまごうかたなく予告していたのである。
この悲惨な軍事的教訓をあるがままに正当に評価すれば、それから僅か二年三カ月後に大戦に突入する愚は回避できたはずである・・・・ノモンハンに轟いた砲声は、日本にとって、運命が扉を叩く音であった。(文春文庫 裏表紙から))

 


 

ネタバレなしの読後感想

 

日本が第二次世界大戦に突入する前の1939年に、満州の北辺でソビエトと日本との間で起きた国境紛争を資料(史料)と生存者の話を時系列に沿って書かれた戦記です。
日清・日露の戦争に勝ち、第一次世界大戦では大規模な戦いをせずに戦勝国となった日本が、歩兵・戦車・航空機を連携させた近代戦に取り組むことを怠り、歩兵の精神力に頼り、数倍の戦力と十分な陣地の構築や近代戦に則ったソビエト軍に大敗し多くの将兵を失ったこのノモンハン事件は、配線に対する反省と検証をされることもなく、後の対戦でも同様に兵の精神力に依拠した戦闘を重ねて多くの命を散らせることになったと作者は憤りを綴っています。上に立つ者の曖昧な決断が危険であることや企画をする者(参謀)が収集されたデータに基づく科学的な根拠が重要であることなど、今の世でも指導者がないがしろにしがちなことを基にした無謀な戦いであったことは、当時の日本人にとってとても不幸なことだったと思います。
ことは勝ち負けよりも、日露戦争から第二次世界大戦の終戦まで日本の陸軍は、食用や水、弾薬などの輜重が未然であっても戦うことにはやり無謀な作戦を遂行することを繰り返し、日露戦争の203高地の攻防戦さながらの白兵戦を挑み多くの戦傷者をも生み出した。これは日本人の気質によるものなのだろうか。もしそうだとしたら、とても危うい器質だと言わざるをえない。

 


 

<五味川純平の紹介>
 1916(大正5)年3月15日満州に生る。大連第一中学校より東京外語英文科にすすみ、卒業後満州・昭和製鋼所に入社、鞍山本社調査部に勤務。1943年招集をうけ、東部ソ満国境を転々とする。1948年引揚げ。主要著書に「人間の条件」「戦争と人間」(三一書房)「歴史の実験」(中央公論社)(文春文庫から)

 


 

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