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田宮虎彦 落城・足摺岬_1655
カバー装画 笹島喜平

 

<収録>
落城
末期の水
かるたの記憶
天路遍歴
土佐日記
絵本
足摺岬

 


 

ネタバレなしの読後感想

 

・落城
戊辰戦争で新政府軍と戦うことを選んだ東北のある藩(作者による架空の藩)が滅んでいく過程を描いている。
旧幕府(徳川家)への忠義や名誉を捨てて、君主と藩を守ろうとする新政府への恭順派。彼らを斬り殺してまでも反新政府を主張する徹底抗戦派。小さな藩が二分され、声が大きく聞こえの良い抗戦へと流れる様は、太平洋戦争を始めた軍部にも似ている。
勇ましい言葉を信じて引きずられてはいけないという教訓とともに、戦いに敗れたものの末路に哀れを覚える。
・足摺岬
昭和初期の暗い世相の中で病をえて働くこともままならなくなり、生きていくことを諦めた青年が訪れた足摺岬で、同宿の人たちによる人の温かさに触れて思いとどまるさまが描かれている。
たいへんな不況の中で生まれた社会格差の谷で生きていくことの困難さは、現在にも通ずるものを感じる。小林多喜二の『蟹工船』のようなプロレタリア文学ではないが、格差の残酷さを訴えかけている。

 

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