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阿川弘之 岸 健喜 雲の墓標 新潮文庫
カバー装画 岸 健喜

 


 

ネタバレなしの読後感想

京都大学で万葉集の研究をしていた大学生・吉野の日記と同期生の手記や恩師の手紙の形式を取り、学徒出陣で学業を切り上げて戦争へとむかわざるを得なかった若者たちの無念、焦りと心の揺らぎを綴った作品です。
1942年6月のミッドウェイ海戦での大敗を境に劣勢となった日本軍は、兵士の不足を補うために卒業を前倒しにして学生を徴兵することを常態としてしまうが、学業への未練や死ぬことを前提とした軍の教えに戸惑い、更に教官や志願者である兵学校生による制裁に苦しめられる。なおかつ、戦局の悪化とともに燃料や航空機の不足から満足な訓練を受けることもできない日々に、諦めをも覚えてしまう。
日記という形式が、滅びへの、死への道を刻んでいくようで憂鬱さを助長する働きをしているような感じがする。予備学生としての訓練を終え、海軍少尉となると今までになかった飛行機が艦船に体当たりをすることが当たり前のこととなり、死が不可避のこととして襲いかかってくる。友人や同期の死、南方の島々の陥落、海軍艦艇の損失、本土への空襲。「神経衰弱になったのではないか・・・」と思うほどに思考が停止してしまう。恐らく当時の多くの国民が同じ状態ではなかったのではないだろうか。
狂った時代に生きた学生たちが悲しい。

 


<阿川弘之さんの紹介>
大正9(1920)年、広島生まれ。東京帝国大学文学部卒業。
「春の城」など太平洋戦争をテーマとした作品が多い。
昭和28(1953)年、「春の城」で第4回読売文学賞受賞。
平成14(2002)年、「食味風々録」で第53回読売文学賞受賞。
平成19(2007)年、第55回菊池寛賞受賞。
平成27(2015)年没

 


 

阿川弘之さん その他の文庫本

春の城
あくび指南書

 


 

 


 


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