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池波正太郎 中 一弥 剣客商売 陽炎の男
カバー装画 中 一弥

 

若衆髷をときほぐし、裸身を湯槽に沈めた佐々木三冬に、突然襲い掛かる無頼の浪人たち。しかし、全裸の若い女は悲鳴もあげず、迎え撃つかたちで飛びかかっていった。隠された三百両をめぐる事件のさなか、男装の武芸者・三冬に芽ばえた秋山大治郎へのほのかな思いを描く表題作。
香具師の元締のひとり娘と旗本の跡取りとの仲を小兵衛がとりもつ「嘘の皮」など全7編。シリーズ第3作。(新潮文庫 裏表紙から)

 

<収録>
東海道・見付宿
赤い富士
陽炎の男
嘘の皮
兎と熊
婚礼の夜
深川十万坪

 


 

多くの時代劇の原作者となった、稀代の時代小説家です。
「必殺仕事人」、「鬼平犯科帳」、「剣客商売」がおなじみですが、主人公や登場人物に愛着がわくような人物設定が見事です。ですから、ともすればワンパターンになりかねない殺し、捕り物、剣劇のテレビドラマになっても、飽きがこないのではないかと思います。
歴史小説家としては、真田家を様々な角度から描いています。作者が、真田家について深く研究をした結果であることは、容易に想像がつきます。

 


 

ネタバレなしの読後感想

剣客商売シリーズの3作目であるこの作品は、秋山親子、おはる、佐々木三冬、弥七などの登場人物の人物設定が固まり、作者の想像が膨らんで筆が乗ってきたことがうかがえるノリノリの各編です。
秋山親子の超人的な剣技の描き方もさることながら、必要がないかもしれない背景の描写がとても優れている。例えば一編目の『東海道・見付宿』の中で、秋山大治郎が江戸から東海道を上る背景描写として、
「翌朝は暗いうちに出立し、夕景に小田原城下をぬけ、箱根・湯元へ泊り、ここで、箱根の関所を裏側からぬける手筈をととのえた。雨はあがり、晴天となった。関所を通るための必要な身分証明をうけること暇なく江戸を発した大治郎だが、そこは旅なれたもので、金を出してたのむと、関所の役人と結託して、ひそかに関所の裏の山道を超えさせてくれる連中が、湯元や小田原にもいるし、また、箱根の向こう側の三島にもいる。」とある。
この文から、道中手形も入手できないほどに急な出立だったこと、それを補う人脈を持っていること、関所破りを辞さないほどに急いでいたこと、何がなんでも法を守るガチガチの正義感の持ち主ではないことなどが読み取れる。そして、なぜこれほどまでに急ぐのかということを考えさせてくれる。
活劇としての楽しさで速読みをしがちだが、こういうところに目を向けるのも池波正太郎さんの作品を読む楽しみの一つではないかと思う。

 


 

<池波正太郎さんの紹介>
1923(大正12)年、東京に生まれる。1955年東京都職員を退職し、作家生活に入る。新国劇の舞台で多くの戯曲を発表し、60年第43回直木賞を「錯乱」によって受賞。77年第11回吉川英治文学賞を「鬼平犯科帳」その他により受賞する。作品に「剣客商売」「その男」「真田太平記」“必殺仕掛人”シリーズ等多数。

 


 

池波正太郎さん その他の文庫本

戦国幻想曲
英雄にっぽん
編笠十兵衛
まぼろしの城
あほうがらす
あばれ狼
剣客商売
侠客
おれの足音 上・下
剣客群像
闇の狩人 上・下
上意討ち
男振
闇は知っている
さむらい劇場
蝶の戦記 上・下
鬼平犯科帳 1
真田騒動 恩田木工
堀部安兵衛 上・下
忍びの女 上・下
炎の武士
梅安最合傘 仕掛人・藤枝梅安
殺しの掟
梅安乱れ雲 仕掛人・藤枝梅安
まんぞくまんぞく
むかしの味
旅路 上・下
雲霧仁左衛門 前・後
江戸の暗黒街
忍者丹波大介
夜の戦士 上・下
忍びの風 一・二・三
忍者群像
火の国の城 上・下
剣の天地
食卓のつぶやき
仇討ち
剣客商売 新妻

 


 

池波正太郎記念文庫

 

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JR鶯谷駅からゆっくり歩いて20分ほどの所にある「池波正太郎記念文庫」。ガラス張りの台東区立中央図書館の1階の一隅にある。今年(2022年)が池波正太郎さんの生誕百年とあってか、公営の施設にも関わらず少し力が入っているように感じる。
入場は無料。撮影は禁止。著書、直筆の原稿などが場所柄か少し窮屈そうに展示されている。
池波正太郎さんが描いた絵もある。きっと短時間にササッと書かれたのであろうが味がある。
池波マニアは行くべきです。

 

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