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遺臣伝 子母澤寛 熊谷博人 新潮文庫 
カバー装画 熊谷博人

 

ネタバレ無しの読後感想

幕末の剣豪男谷精一郎の師弟たちが、時代の流れに翻弄されながらも自分の生き方を見つけていく物語です。貧しい御家人や武家の次男三男が生きていくために剣で身を立てることが必要であり、良い師につき稽古に励むことによって念願が叶うと信じてきたことの困難さと、やっと手に入れたものが体制の変化によって奪われても、自らの信念に基づいて生きていく姿に清々しさを感じます。
時代の変化が怒涛のように押し寄せてくるが、それが一体何なのかを知るすべもなく生きていくのは今の時代も同じなのかもしれない。外国からの威圧によって開国をし、それに伴って尊王思想が強くなっていく中で幕藩体制が瓦解していったが、今の時代を揺り動かしているのは何なのだろう。インターネットテクノロジーの進歩だろうか。それとも自分ファーストの考え方だろうか。
時代は常に変化をしていて、過去の成功体験が役に立たなくなるスピードも増しているようだ。良い学校に入り良い会社へ就職すれば人生は安泰という図式も色あせている。
この小説の主人公は、悔いの残らない人生の歩み方を示しているように感じる。
『遺臣伝』と同じように幕末から維新へ生きていく武士を描いた小説が浅田次郎さんの『お腹召しませ』に収録されている。一緒に読んでみるのも面白いかもしれません。

 


 

<子母澤 寛さんの紹介>
明治二十五年(1892)、北海道に生まれる。本名、梅谷松太郎。明治大学法学部卒業。読売新聞・毎日新聞の記者をつとめた。昭和三年『新選組始末記』を出版。のち股旅小説を多数発表、『弥太郎笠』『菊五郎格子』『国定忠治』『すっ飛び駕』『駿河遊侠伝』などがその代表作。戦後は幕末遺臣と江戸への挽歌ともいうべき作品『勝海舟』『父子鷹』『おとこ鷹』『逃げ水』などを発表、昭和三十七年に菊池寛賞受賞。随筆の名手として知られ、『ふところ手帖』(正統)のほか『愛猿記』『よろず覚え帖』などがある。昭和四十三年(1968)没。(中公文庫から)

 


 

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