面白そうな文庫本を探す 綺麗な装画・イラスト

勝海舟(三) 子母澤寛 新潮文庫 

 

ネタバレ無しの読後感想

勝海舟が不惑(42歳)を迎えた頃の物語です。攘夷の思想に固執する朝廷から外国船打ち払いの勅旨が出ている一方で、幕府は諸外国に開港する箇所を増やすことを約束するという状況の中で、長州と薩摩は外国船に砲撃をして朝廷の命に従い、その賠償金を幕府が諸外国へ支払うというチグハグな状態によって威信と財政の力を失っていき、幕府は屋台骨がぐらついていく。
将軍家茂の死によって最大の理解者を失った海舟は、朝令暮改を繰り返す幕閣によって敬遠されながらも、大事な場面では重用されるということを繰り返す中で悶々とした日々を送る。ときに弱音を吐くが、良き理解者から「赤誠」の思いを通すことを諭される場面も多い。
家持亡き後は徳川家臣としての立ち位置が薄れ、日本のためという思いが大方を占めるようになっていくことが読み取れる。憂慮、諦め、希望がない混ぜになって海舟の心を苦しめるが、第二次長州征伐のゴタゴタと家持の死によって更に重くなっていく様子に、読んでいても鬱々としたものを感じる。
時の流れは幕府に厳しく、それに抗することは的外れであり、因循姑息な態度に終止した幕府の政治を見ると、長期政権が持つ変化への対応の弱さを感じる。突破口を開くための行動が、かえって自分を苦しめる様子は現在の露プーチン政権にも見られるし、中国習政権もどうなるかと思わずにいられない。日本も同様で、世界経済が順調な中で日本は停滞し埋没を続けている。給付金では経済が良くならないことを知っていながら、経済対策を取ることなく給付を続ける政府に因循姑息の言葉を贈りたい。

 


 

<子母澤 寛さんの紹介>
明治二十五年(1892)、北海道に生まれる。本名、梅谷松太郎。明治大学法学部卒業。読売新聞・毎日新聞の記者をつとめた。昭和三年『新選組始末記』を出版。のち股旅小説を多数発表、『弥太郎笠』『菊五郎格子』『国定忠治』『すっ飛び駕』『駿河遊侠伝』などがその代表作。戦後は幕末遺臣と江戸への挽歌ともいうべき作品『勝海舟』『父子鷹』『おとこ鷹』『逃げ水』などを発表、昭和三十七年に菊池寛賞受賞。随筆の名手として知られ、『ふところ手帖』(正統)のほか『愛猿記』『よろず覚え帖』などがある。昭和四十三年(1968)没。(中公文庫から)

 


 

子母澤寛さん その他の文庫本

子母澤 寛  勝海舟(一)
子母澤 寛  勝海舟(二)
子母澤 寛  勝海舟(四)
子母澤 寛  勝海舟(五)
子母澤寛  勝海舟(六) 明治維新
子母澤 寛  国定忠治
子母澤 寛  遺臣伝
子母澤 寛  新選組物語
子母澤 寛  逃げ水

page top