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カバー装画 牧 進
太平洋戦争中から終戦直後にかけて、著者は〈日本婦道記〉と題した短編を発表し続けた。初期の代表作となったこのシリーズには、未曾有の非常時にあって、古来、戦場の男たちを陰で支え続けてきた日本の妻や母たちの、夫も気づかないところに表われる美質を掘起こしたいとの願いが込められていた。本書には、「忍緒」や「二粒の飴」など、文庫未収録の本シリーズ作品のすべて、17編を収録。(新潮文庫 カバー装画から)
<収録>
笄堀 (「婦人倶楽部」昭和十八年一月号)
忍緒 (「婦人倶楽部」昭和十八年二月号)
襖 (「婦人倶楽部」昭和十八年三月号)
春三たび (「婦人倶楽部」昭和十八年四月号)
障子 (「婦人倶楽部」昭和十八年六月号)
阿漕の浦 (「ますらを」昭和十八年六月号)
頬 (「婦人倶楽部」昭和十八年九月号)
横笛 (「婦人倶楽部」昭和十八年十月号)
郷土 (「婦人倶楽部」昭和十八年十一月号)
雪しまく峠 (「婦人倶楽部」昭和十八年十二月号)
髪かざり (「婦人倶楽部」昭和十九年一月号)
菊の系図 (「婦人倶楽部」昭和十九年三月号)
壱岐ノ島 (「婦人倶楽部」昭和十九年五月号)
竹槍 (「婦人倶楽部」昭和十九年六月号)
蜜柑畑 (「婦人倶楽部」昭和十九年七月号)
二粒の飴 (「婦人倶楽部」昭和二十年二月号)
萱笠 (「菊屋敷」昭和二十年十月刊 初収)
ネタバレなしの読後感想
<収録>にあるように、第二次世界大戦中の劣勢から敗色が濃くなった時期に書かれている作品と敗戦直後に書かれたものを集めた短編時代小説集です。ストーリーの主幹をなすのは全て女性。立場をわきまえて忠義を尽くす女性、信念を全うしようとする女性など多くの人から理想とされるような女性ばかりです。
収録された作品のうち、戦中に書かれたものを読むと「銃後の守り」という言葉が思い起こされる。戦地へ赴いた夫の不在を守るという意味だが、当時の世相から見れば戦意高揚のために出版社から書いて欲しいと頼まれたのではないかと想像される。全体に教育・教訓めいたものを感じてしまう。出版の時期を追うごとに、段々と紙数が減っていくのをみると雑誌に充てられる紙の量が減っていっていることも窺える。
一転戦後の作品となると、戦場で逝ってしまった夫の家と親を守るけなげな女性が描かれている。これには教育的な色合いはない。
全体に筆者の優しい目線が感じられます。
山本周五郎さんの紹介
1903−1967年、山梨県生まれ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店の徒弟として住み込む。1926(大正15)年4月『須磨寺附近』が「文藝春秋」に掲載され、文壇出世作となった。『日本婦道記』が ’43(昭和18)年上期の直木賞に推されたが、受賞を固辞。 ’58年、大作『樅ノ木は残った』を完成。以後、『赤ひげ診療譚』(‘58年)『青べか物語』(’60年)など次々と代表作が書かれた。(新潮文庫)