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吉行淳之介 クレー 焔の中 中公文庫
カバー装画 クレー 綱渡り師(ベルン美術館)

 

敗戦を二十一歳で体験した著者の、かけがえのない、文字どおり“焔の中の青春”の証言がここにある。不幸なまでに過剰な感受性を戦争の轍にふみにじられ、予想される死の影のもとでわずかに若い生命の火を暗く燃やす。親しい友は原爆で死に、一人、荒廃した焦土に若者は立つ。歳月をこえ胸に迫る著者の自伝的長篇。(中公文庫 裏表紙から)

 

<目次>
藺草の匂い
焔の中
廃墟と風
華麗な夕暮

 


 

ネタバレなしの読後感想

昭和19年春から終戦直後にかけて作者が体験したことと、その時に作者が感じたことを中心に描いている作品です。
敗戦となることが濃厚となり、作者自身も高校生の身でありながら徴兵されることになるが、軍国主義者を嫌う作者であっても、もうすぐに死ぬことを覚悟しながらも死ぬ確率が低くなることを喜ぶ。厭世的ではないが、死に対してどこか麻痺した状態がうかがえる。死を達観しているようでそうではない不安定さ、一般市民も死を現実のものとして受け入れざるを得ない戦時下と二十歳という年齢からくる作者のアナーキーな感じがこなれていない不安定さ、壊れやすさがどこか悲しい。
20年5月の空襲やポツダム宣言受諾についての記述は生なましく、もあり作者の眼と思考の確かさを十分に感じられる。
若い世代にもぜひ読んでほしいと思う作品です。

 


 

大学生だった私から見て、かっこいいモテそうなおじさんは、実際にモテたらしい。作風も、これでもかと笑いを誘い続ける遠藤周作とは一味ちがい、オトナの世界を感じさせられた。

 


 

<吉行淳之介の紹介>
大正十三年(1924)岡山市に生まれ、三歳のとき東京に移る。麻布中学から旧制静岡高校に入学。昭和十八年9月、岡山連隊に入営するが気管支喘息のため四日で帰郷。20年東大英文科に入学。大学時代より「新思潮」「世代」等の同人となり小説を書く。大学を中退してしばらく「モダン日本」の記者となる。二十九年「驟雨」で第三十一回芥川賞を受賞。四十五年には『暗室』で第六回谷崎潤一郎賞を受賞する。主な作品『原色の街』『砂の上の植物群』『星と月は天の穴』『夕暮れまで』、短篇に「娼婦の部屋」「鳥獣虫魚」等。(中公文庫から)

 


 

吉行淳之介 その他の文庫本

悪友のすすめ
怪談のすすめ
軽薄のすすめ
にせドンファン
面白半分のすすめ

 


 

吉行淳之介文学館

 

s-吉行淳之介文学館_165205

 

掛川インターからいい加減行った木立の右手にあるのをようやく見つけた。
平屋建ての瀟洒な建物が落ち着いた雰囲気でたたずんでいる。いかにも「文学館」といった構えだ。
駐車場は建物に向かって左側にある。受付で入館料を払い “撮影禁止” を確認してから備え付けのスリッパに履き替えて館内を廻る。
吉行淳之介さんが執筆した部屋が再現されており、椅子の小ささに思わず笑みがこぼれる。よほど大事にされていたのだなと・・・
著書や、直筆の原稿、文学賞の賞状に加えて『焔の中』のカバー装画に使われているクレーの絵が飾ってあった。説明文によると吉行淳之介さんがお気に入りの画家だったそうです。
足を運んで損はありません。

 

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