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松本清張 菊地信義 軍師の境遇 角川文庫
カバー装画 菊地信義

 

「おれが死んだら、あとはだれが天下を取るか遠慮なくいってみよ」―侍臣たちの返事に首を振った秀吉が頭に思い浮かべるのは、片足が不自由で、風采の上がらぬ軍師官兵衛の姿だった。黒田官兵衛孝高、元播州御着の城主小寺政職の家老で、秀吉の中国攻め以来、参謀として縦横の機略を振るい、その天下取りに絶大の功をたてたが・・・・。余りに卓越した才ゆえに不運の境遇を味わう軍師の、皮肉な運命を描く表題作(原題「黒田如水」)のほか二編を収める。(角川文庫 カバーそでから)

 

<収録>
軍師の境遇
逃亡者
板元画譜

 


 

「点と線」や「ゼロの焦点」などを書いた推理小説の大家ですが、私にとっては子母澤寛や海音寺潮五郎とならぶ歴史小説の作家です。
司馬遼太郎とは異なる松本清張の世界を本から味わって欲しいと思います。
また、その容貌から、小学生のものまねネタになっていたぐらい有名な人でもありました。

 


 

ネタバレなしの読後感想

黒田官兵衛、2014年に放送されたNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」で、その名を知った人も多いのではないだろうか。吉川英治の作品の影響か、黒田如水といったほうが馴染み深く感じる人もいるはずです。
吉川英治の「黒田如水」、司馬遼太郎の「播磨灘物語」、それに葉室麟も書いている比較的に歴史資料が揃った人物ではあるが、描かれ方はだいぶん異なる。この作品では、叡智に富んだ者としてよりも、自分を裏切った旧主小寺政職への忠義を尽くす好人物として描かれているように感じる。豊臣秀吉や竹中半兵衛との出会いによって人生が変わり、救われたということは、この時代にあってはとても幸運なことだったのかもしれない。学研の「高3コース」に昭和31年4月から翌年の3月までに「黒田如水」として掲載されていたと言うこともあってか、艶ぽいところもなく好感が持てる。
他に収録されているのは、細川忠興と於珠(ガラシャ夫人)を描いた「逃亡者」と18世紀の終わり寛政の改革後に写楽を売り出した板元(版元)「蔦重」の手代の目を通して、当時の板元と絵描きの関係を書いた異色の小説です。読んで損はありません。

 


 

<松本清張さんの紹介>
明治42(1909)年、福岡県小倉市(現・北九州市)に生れる。昭和28年「或る『小倉日記』伝」で第28回芥川賞を受賞。31年、それまで勤めていた朝日新聞社広告部を退職し、作家生活に入る。38年「日本の黒い霧」などの業績によりジャーナリスト会議賞受賞。45年菊池寛賞受賞。「点と線」「日本の黒い霧」「現代官僚論」「昭和史発掘」「古代史疑」など多方面にわたる多くの著作があり、「松本清張全集」(T期38巻、U期18巻、文藝春秋)が刊行されている。(文春文庫から)

 


 

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