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北杜夫 串田孫一 どくとるマンボウ航海記 新潮文庫
カバー装画 串田孫一

 

水産庁の漁業調査船に船医として乗りこみ、五カ月間、世界を回遊した作者の興味あふれる航海記。航海生活、寄港したアジア、アフリカ、ヨーロッパ各地の生活と風景、成功談と失敗談などを、独特の軽妙なユーモアと卓抜な文明批評を織り込んで描く型破りの旅行記である。のびやかなスタイルと奔放な精神とで、笑いさざめく航跡のなかに、青春の純潔を浮き彫りにしたさわやかな作品。

 


 

昭和49年7月30日発刊の第23刷を読み返してみました。中学2年生か3年生の頃に買ったものだと思います。価格は180円。
渡航をするためなら何でもいいと、わずかに600トンほどのマグロの新漁場開拓調査のための船の船医として急遽乗り込んで、1958年から59年にかけて東シナ海から南シナ海、インド洋、紅海、地中海を経てドイツ・ハンブルクまでの往復にあった「どうでもいいこと」を書き連ねた作品です。
他の「どくとるマンボウ」シリーズ同様に、著者の悪ふざけによる虚を織り込んだユーモアに溢れる文章は、恐らく中学2年生にも読みやすかったのかもしれません。
当時はクジラやマグロを漁する遠洋漁業が盛んなころで、世界各地の港では日本人が歓迎されたそうですが、著者の一行もいろいろな意味で歓迎された様子も描かれています。
第三次南極観測隊を乗せた「宗谷」とほぼ時を同じくして出向した船は、盲腸の患者以外は大きな病や怪我もなく船医としての活躍を見ることができませんでしたが、海外への憧れと異郷の地への恐れを味わうのに余りある楽しい本です。

 

<目 次>
私はなぜ船に乗ったか
これが海だ
飛ぶ魚、潜る人
シンガポールさまざま
マラッカ海峡からインド洋へ
タカリ、愛国者たむろすスエズ
ドクトル、閑中忙あり
アフリカ沖にマグロを追う
ポルトガルの古い港で
ドイツでは神妙に、そしてまた
小雪ふるエラスムスの街
霧深いアントワープ
パリの床屋教授どの
わが予言、崩壊す
ゴマンとある名画のことなど
盲腸とアレキサンドリア
海には数々の魔物が棲む

 


 

中学に上がると北杜夫や遠藤周作を読み始めた。北杜夫は『船乗りクプクプの冒険』を子供向けに書いているので、自然な流れのように『どくとるマンボウ』を冠するエッセイから『夜と霧の隅で』や『楡家の人びと』へと進んでいった。
思春期の入り口に立ったばかりの中学生にとって、学生生活や昆虫への興味を綴ったエッセイは、憧れをもって読まずにいられないほど魅力的だった。
時々テレビに出てくる北杜夫は、少しもっさりとした感じで、落ち着いた声でゆっくりと話す姿に好感を覚えた。今は文壇に立つ者がテレビの画面に出ることは稀だが、当時は多くの作家がテレビ番組に登場していた。作品だけでは満足できないファンにとって、嬉しいひと時だった。

 


 

<作家紹介>
昭和2(1927)年、東京生まれ。東北大学医学部を卒業。昭和35(1960)年、『夜と霧の隅で』で第43回芥川賞を受賞。『楡家の人びと』で第18回(1964年)毎日出版文化賞受賞。ユーモアのあるエッセイのほか大人も子供も楽しめる小説も数多く執筆。
平成23(2011)年没

 


 

北杜夫さん その他の文庫本

さびしい王様
さびしい乞食
さびしい姫君
奇病連盟
夜と霧の隅で
幽霊
船乗りクプクプの冒険
遥かな国 遠い国
高みの見物
南太平洋ひるね旅
どくとるマンボウ昆虫記
親不幸旅日記
どくとるマンボウ追想記

 


 

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