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池井戸潤 シャイロックの子供たち 
カバーイラスト 木内達朗

 

ある町の銀行の支店で起こった、現金紛失事件。女子行員に疑いがかかるが、別の男が失踪・・・!? “たたき上げ” の誇り、格差のある社内恋愛、家族への思い、上らない成績・・・ 事件の裏に透ける行員たちの人間的葛藤。二転三転する犯人捜し、組織の歯車の中でリアルな生が交差する圧巻の金融クライム・ノベル!(文春文庫 カバー裏表紙から)

 

<目次>
第一話 歯車じゃない
第二話 傷心家族
第三話 みにくいアヒルの子
第四話 シーソーゲーム
第五話 人体模型
第六話 キンセラの季節
第七話 銀行レース
第八話 下町蜃気楼
第九話 ヒーローの食卓
第十話 晴子の夏

 


 

ネタバレなしの読後感想

表題にある「シャイロック」はシェークスピアが書いた『ベニスの商人』の登場人物であるユダヤ人の金貸しの名前です。強欲で無慈悲な拝金主義者として描かれており、後にドイツのヒットラーによるユダヤ人嫌い、排斥の遠因となったとも言われる強烈な人物です。金貸し=銀行員としてこの小説の舞台の銀行の象徴として取り入れられている。
都市銀行の一支店の人物を描いたオムニバス形式の描かれ方ですが、途中から軸となるテーマが現れ始め興味がこの一転に集約されてくる。
毎日毎日目の前を、そして手の中を大量のお金が「商品」として流れていく状況は金融業界を経験していない人には理解できないかもしれないが、時に異様さを感じさせる。入行の時に “お金はものを買うためのものではなく「商品」だ” と教えられその通りに慣らされるが、ふとした瞬間に “ものを買うためのそれ” に姿を変える。今でこそ銀行内の犯罪が起こりにくい仕組みになっているが、行員がシャイロックへと姿を変える温床は残されている。また、ノルマを達成できない部下に罵詈雑言を投げかけるパワハラ・モンスターが登場してくるが、恐らく仕事のノルマを今でも課せているだろうから、どのように指導をしているのかと疑問をいだいてしまう。
エンディングについて賛否があるだろうが、「温床」の深さを思うと含みをもたせた終わり方のほうが怖ろしさを醸し出すには良いのかもしれない。

 


<池井戸潤さんの紹介>
1963年岐阜県生まれ。慶応義塾大学卒業。98年『果つる底なき』(講談社文庫)で江戸川乱歩賞、2010年『鉄の骨』(講談社文庫)で吉川英治文学新人賞、11年『下町ロケット』(小学館)で直木三十五賞を受賞。
主な作品に、『オレたち花のバブル組』『オレたちバブル入行組』『シャイロックの子供たち』『株価暴落』『民王』(文春文庫)、『銀行総務特命』『銀行狐』『BT‘63』『不祥事』『空飛ぶタイヤ』(講談社文庫)、『最終退行』『ようこそ、わが家へ』(小学館文庫)、『金融探偵』(徳間文庫)、『ルーズヴェルト・ゲーム』(講談社)、『ロスジェネの逆襲』(ダイヤモンド社)、『七つの会議』(日本経済新聞出版社)などがある。

 


 

池井戸潤さん その他の文庫本

オレたちバブル入行組
ようこそ、わが家へ
株価暴落
民王

 

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